社団法人日本民営鉄道協会が、駅構内や電車内に「暴力行為防止ポスター」を掲示している。平成22年(2010年)12月6日のプレスリリースを参照。
この手のポスターは数年前から見かけるもので、このブログでも以前話題にした(2009年5月6日「あなたの家族や友達がどう思うか」)。そこでは「暴力を振るわれた人の不在」に対する違和感や、暴力行為防止の呼びかけに「あなたの家族や友達」を持ち出す気持ち悪さ・おかしさ、について書いた。
で、先日またこの呼びかけポスターを見かけてふと思ったのだが、この一連のキャンペーンって呼びかけ対象が「サラリーマンのみ」なのではなかろうか。冒頭にリンクしたプレスリリースから、ポスターの掲示目的を記した文書と、ポスターのイメージをPDFで見ることができるが、その文書には
3.ポスターで訴求するポイント
ヒビの入った写真とあわせて、「お酒に酔っての暴力行為が、あなたの大切なものをすべて壊してしまう」と強くメッセージを打ち出し、暴力行為を未然に防ぐことを目指します。
また、暴力行為は犯罪であること、暴力行為に対して鉄道業界全体が結束して、毅然とした態度で対応することを強く訴えます。
とあり、ポスターには
上司や同僚たちに信頼され、やりがいのある職場。
仕事を通じて、社会の中に築いてきた人間関係。しかし、お酒に酔っての”暴力行為”が、
あなたの大切なものを全て壊してしまいます。明日もまた、いつもどおりの一日を過ごすために。
と書かれている。このポスターはどのような種類の人達に向けて作られたものなのかが見えてくる。
また、この文書には
今回の取り組みは駅や電車内におけるお客様同士のトラブルや、駅員や乗務員などの鉄道係員に対する暴力行為が増加している昨今の状況を鑑み
とある。
つまり、社団法人日本民営鉄道協会は
『「上司や同僚」「職場」を持ち「仕事を通じて、社会の中に築いてきた人間関係」がある人』によって「お客様同士のトラブルや、駅員や乗組員などの鉄道係員に対する暴力行為が増加」している
という認識を持っているわけだ。
これは「職場がないヤツは暴力沙汰を起こして構わない」というよりは、「そういうヤツは車内で暴力沙汰を起こさない(起こしたとしても数が少ない)ので呼びかけの対象外」なのだろう。
まあ、だとしてもこのポスターの気持ち悪さ、グロテスクさは変わらないのだが。なんというか、子供に対して「あのおじさんに怒られるよ」と言う親みたいな気持ち悪さがぷんぷんと漂ってくるのだあのキャンペーンポスターには。
あと、「上司」「同僚」「職場」「社会」「人間関係」という言葉を用いると、ある種の人間をコントロールできる(実際ポスターを作っている側はそれがねらいなのだし)、というグロテスクさもよく表現されているポスターだ。
※2011/07/18 追記:
今日気づいたのだが、JCcast第42回にて、粥川準二氏が電車内での暴力について話題にしていた。
議論のなかで、武田さんが、車内暴力の加害者について、「弱者じゃないの?」と提起し、僕はそれに同意した。
補足しておこう。ストレスに満ちた環境があり、そこに身を置かざるを得ない人がいる。彼はアルコールでそのストレスを発散しようとしたが、結果として発散できなかった。そのまま、年末の深夜の電車というさらにストレスに満ちた環境に入る。そこではうっとおしいヤツらが大声で話しており、彼のストレスは臨界に達する……僕に直接手を出したオッサンはさておき、車内暴力をふるわざるとえない人々を、「弱者」とみなしても、それほど不当ではないと思う。