2008年1月に、横浜市営地下鉄が「スマイルマナー向上員」を導入することを発表。読売新聞に記事が載っていた。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080204-OYT1T00374.htm (リンク切れ)
「席譲って」横浜市営地下鉄、マナー向上員導入へ
市営地下鉄に全国で唯一、全席優先席を導入している横浜市は、3月に開業する市営地下鉄の新線の車内で、高齢者などに席を譲るよう乗客に声を掛ける「スマイルマナー向上員」を乗車させる。
全席優先席がステッカーや車内放送だけでは、なかなか浸透しないためだ。向上員が声を掛けることで、席の譲り合いを増やしたいという。
新線は、日吉(港北区)―中山(緑区)駅間を結ぶ「グリーンライン」で、3月30日に開業する。向上員は平日の午後2~5時、2人1組で3チームが活動。車両内を行き来しながら立っている高齢者や妊婦らがいると、「どなたか譲ってもらえませんか」と座っている乗客に呼びかける。トラブルにならないよう、各チームには警備員も付く。
向上員は、市営地下鉄を利用している18歳以上からアルバイトとして募集し、作文や面接で約20人を選び、3時間の活動で1500円支払う。
市交通局は「ステッカーや放送だけでは、いつも利用している人は全席優先席を意識しなくなってしまう。譲り合いは強制ではないが、声掛けによってマナーを浸透させたい」と期待する。
ただ、利用者の向上員導入への受け止め方は様々だ。旭区の主婦(56)は「譲ってあげたくても恥ずかしくて言い出せない場合が多く、声を掛けてもらえれば、背中を押してもらえる」と歓迎する。一方、中区の高校1年の女子生徒(15)は「譲るよう言われたら周りに恥ずかしい」と嫌がり、泉区の男性(81)は「席の譲り合いは本来自発的なものなのに、不自然」と首をかしげる。
加藤諦三・早稲田大教授(心理学)は「高齢者や妊婦に席を譲るのは当たり前のこと。(向上員導入は)当たり前のことを直接声を掛けて実行させなければならないところまで、日本の社会が心理的に崩壊していることを象徴している」と嘆く。
全席優先席は、関西の阪急電鉄が1999年に全国で初めて導入したが、浸透せずに昨年10月、廃止した。横浜市は2003年から取り組んでいる。
(2008年2月4日14時39分 読売新聞)
この取り組みを思いついた人、それにゴーサインを出した人ってどんな人なのかとても興味がある。おそらく本気なんだろうから。
とても善意な人なんだろうなあと思う。そして「スマイルマナー向上員」にも善意に溢れた人が応募して善意に満ちた活動をしてくれるんだろう。
まあ、こういう危険の伴う面倒くさい仕事は安いバイト(時給500円)にやらせるってのは合理的だよね。善意(しかも気持ちの悪い)の搾取。
加藤諦三・早稲田大教授(心理学)は「高齢者や妊婦に席を譲るのは当たり前のこと。(向上員導入は)当たり前のことを直接声を掛けて実行させなければならないところまで、日本の社会が心理的に崩壊していることを象徴している」と嘆く。
この取り組みはおそらく「権利意識ばかりが肥大したモラルや思いやりに欠けた自己中心的な人(「三丁目の夕日」の時代にはこんな自分勝手な人はいなかった!)」のせいで上手くいかず、この取り組みを思いついた人や善意に溢れたスマイルマナー向上員は上記のような捨て台詞を吐くことになると思うけど、その次はどうなるのかな。条例で「高齢者や妊婦に席を譲らない人からは過料を徴収」あたりかな。あるいは次もまた、勘違いした斜め上の取り組みを思いつくのかもしれない。
そういえば横浜市西区がやったタマちゃん(アザラシ)の住民登録って今はどうなったんだろう。
そして、横浜市交通局の公式アナウンスがこれ。
http://www.city.yokohama.lg.jp/koutuu/kigyo/newstopics/2007/tsmile.html
モラルやマナー意識が低下している現代社会において、『人』と『人』の温かなコミュニケーションを活かした取組として『スマイルマナー向上員』を組織し、お客様への直接の働きかけによるマナーの啓発活動を実施し、全席優先席制度の理解浸透・定着を目指します。
この取り組みを思いついた人やOKサインを出した人がどういう人なのかが透けて見える文面だ。スマイルマナー向上員の待遇や活動時間を見ると、時間的経済的に余裕のある意識の高い(笑)人が集まるんじゃないかと思う。
数年前には「ほっとけない」と連呼してホワイトバンドを着け、オーガニック食品と称するものを消費してちきゅうにやさしい気分に浸り、今は当然ホワイトバンドなんて忘却の彼方だけど最近LOHASに凝ってデザインが古いだけのデジカメを買ったりヴィトンのバッグを「長く使えてちきゅうにやさしい」と嬉々として買っているソトコト読者あたりが集まったら面白いな。
上記サイトにスマイルマナー向上員の募集チラシのPDFファイルがあって、そこに「車内のスマイルを増やしたい!」とある。
なるほど、この取り組みを思いついて「これで人と人との温かなコミュニケーションが!古き良き社会のマナーの復活が!」なんて本気で思っている人とその賛同者のスマイルを増やしたいのだな。それが本当にスマイルな状態であるのかは知らないが。
席を譲ることに関しては、こういう↓発想で取り組みを考えた方がいいと思うんだけどね。
http://d.hatena.ne.jp/strange/20071021#p2
「席を譲って欲しいといわれたらこころよく席を譲る」というマナーにすればいいと思うんだ。こっちの方が時代に合っているような気がするよ。コミュニケーションなしで阿吽の呼吸だけで他人とものごとを進めるというのは、社会が一律だと信じられていたときしか通用しないんだよねえ。
こっちが何か困っているときに助けてもらえるというのはすごくありがたいことだし、そういう社会になるのはすごくいいことだと思う。でもこっちから何も言ってないのに勝手に助け舟を出してくる人というのは信用しがたい。
逆に困っているので助けてくれといわずに雰囲気だけで困っているアピールをするという人はすごく感じが悪い。何かしてほしいことがあるのにそのことをいわずに「xxしてくれない!」とか怒っているような人を見るとバカじゃないかと思う。
それこそ困っているので助けてくれというとか、そういうコミュニケーションをちゃんとすべきじゃないのかなあ。
…というのが、スマイルマナー向上員のアナウンスを知ったときに私が思ったこと。そして、この取り組みに関しては上記公式アナウンスにもあるけど「半年経過時点で事業効果を検証しその後の事業展開方針を検討します」となっている。例えば、平成20年度末に活動に関しての評価を行っていて(リンク先PDF注意)、そこには「取組内容」として
スマイルマナー向上員
全席優先席の理解浸透を図るため、スマイルマナー向上員によりマナー啓
発活動を行い、3ヶ月毎に浸透度アンケート調査を実施し、評価していきます。
【高速鉄道本部営業課】
とあり、それに対する「年度末の達成状況・課題」として
当初計画では、半年間であった活動を20年度末まで延長して実施しました。事業開始3か月後(20年7月)に行った交通局Webモニターへのアンケート結果(スマイルマナー向上員の認知度が46%、期待度が33%)や向上員の活動報告などを勘案すると、活動の認知度も上がり一定の成果が出ています。このため、21年度はブルーラインにも活動を拡大し、実施することとしました。
【評価C】
とある。「評価C」というのは、「目標どおりの成果があがった」という評価であるとのこと。
また、「(20年7月)に行った交通局Webモニターへのアンケート結果」というのはおそらくここの『第1回 「地下鉄 車内マナー」について』(リンク先PDF注意)だと思われる。
そして、「21年度はブルーラインにも活動を拡大し、実施することとしました」というのはおそらくこれ。
実際のところ、横浜市営地下鉄利用者にどう評価されているのかはわからないけど、継続して活動は続けるらしい。
ところで、スマイルマナー向上員の活動時間帯って「14:00~17:00、平日のみ」とか「平日の日中2時間半程度」ってあるんだけど、この時間帯の乗車率というか席の空き具合ってどの程度なんだろ?ってのが気になった。スマイルマナー向上員の取組が失敗しにくい時間帯設定だなとは思うけど(夜の時間帯に設定しても向上員の通勤的に大変なんだろうが)。